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ANACHRONISM(時代錯誤)+ROVER(海賊)=ANACHROVER

この土地に来てから、もう半年近くになる。
最初は海での生活と仲間が恋しかった。
刺激の無さが、つまらなかった。

仲間のところへ戻ろうかと思い悩んだあの日、
今でも鮮明に覚えている。
この場所が、そんな自分を変えてくれた。

雨上がり、明日の少し手前。
暇を持て余すように知らない道ばかりを選び、夜の街を徘徊していた。
不意に辿り着いたのは、人気の全く無い海岸通り。
一つだけ別世界から放り込まれたかのように、その店は暗闇の中で輝いていた。
チーズが焦げる良い匂い、賑やかな話し声と聴き慣れない音楽、
窓から溢れるオレンジ色の明かり。
思わず中を覗き込もうと扉の隙間に顔を近づける俺に気が付いたロングヘアーの男が、
ワイングラスを片手に手招きをした。

懐かしい気持ちがする。
海での生活を共にした仲間たちもそうだった。
この店に居る連中は、会ったその時から、
慣れ親しんだ友人のように俺を迎え入れる。
出身も地位も職業も、この店で騒ぐ彼らにとってはどちらでも良い。
あらゆる境界を越えて、幼いガキのように、とりとめの無い話で盛り上がる。

2杯目のウィスキーを飲み干そうとしたその時、最初に俺を店の中へと招き入れたこの店の主が、
上の連中にもお前を紹介すると言った。

なるほど・・・そういうことか。
ニールにサミュエルにジョンにミシェル、2階に集う彼らは確かに「上の連中」である。
ボスは何故こんな俺を紹介したいと言ったのか、今でも解らない。

キラキラ輝く大きな金釦の付いた軍服を身に纏ったサミュエルが、
何も言わずに微笑んで葉巻を1本手渡してきた。
見た目にも重そうな金メッキの帽章が、彼の地位を物語る。

陽気なミシェルは突然俺の肩に手を回し、どんな女が好きかと聞いた。
裾広がりのジュストコール(ロングコート)の中にジレと膝丈キュロットを覗せる彼の高貴なスタイルからは 想像し得ない質問に、少し戸惑った。

背の低い木調のテーブルを囲ってL字型に並べられたソファーの中心に座るのは、
見るからに頭の切れる男、ニール。
そこに集う人々は次から次へと湧き出る彼の話に夢中になっている。
専門分野の科学の話から、彼が国務次官として属する内閣内の秘話まで、
仕立ての良いシャイニー素材のジャケットを光らせながら
身振り手振り飽きることなく話をしていた。

「俺はこう見えて捜査グループの中で一番ビリヤードが上手い」
店内に響く甘い歌声に乗って気持ち良さそうに体を揺らすジョンが、
そう言いながら高そうなワインを注いでくれた。
後から聞いた話だが、彼はビリヤードが上手いだけではなくスパイ捜査グループの司令塔だという。

見るもの聞くもの、全てが新しい。
ここへ来る度、自分の感覚が少しずつ変わってゆくのが分かる。

一つの季節を越えた今、想う・・・

ここでの暮らしも、悪くない。