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ANACHRONISM(時代錯誤)+ROVER(海賊)=ANACHROVER

首筋のあたりから背中に流れて尾っぽの先まで、さざ波の如く滑らかにうねる斑点模様。
成人男性ほどの体重をものともせず、幅七メートルもの峡谷を澄ました表情で飛び越える。
時折ぴたりと静止して、森と夕陽の狭間を突き刺すその眼差し。
雄豹というよりもこの世の全てを統括する王様だ。
アコウやガジュマルの太くて長い根がぐにゃぐにゃになりながら横へ横へと地を這って、
岩場や地表を覆い隠す。二メートル以上もあるヘゴの葉が負けじと存在を主張して、
この時刻、緑と茶と夕陽の赤とで視界がごちゃまぜになる。
斑点模様の王様が、捕えた獲物を木の上へと運んでいる。くわえているあれはインパラだろうか。
ハイエナに横取りされてしまわぬよう高所へと避難させる習性があるらしい。
品の良い貴婦人を想わせるインパラの体温は容赦なく奪われ、孤独にその生涯を終える。
瑞々しい緑の中に覗く無機質な黒い物体。今やもう、銃声を聞くのにも慣れてしまった。
泥と汗と植物から滴り落ちる液体とで変色したハンティングジャケットを着た狩猟民が、
仲睦まじいチンパンジーの親子連れを狙っている。
フード付きのシャツを羽織るもう一人は新米だろうか。
小走りのその様が、どうもぎこちない。
額までをも薄黒くして存在を潜める彼らは、背丈からして密猟者の類に違いない。
捕えた動物を燻製などにして市場へ出荷するのだ。
伝統的な狩猟民であれば生きていくために必要最低限の食料しか確保しないうえ、
狩りにとって有利であるよう背丈がとても低い。
合図をしてやるまでもなく、二人は背後から迫る王様に気が付いて退散したようだ。

豹という名の王様……その瞳孔の強烈な輝きと正義感には勝る余地など無いのだ。
二度と来るなというふうに、彼は氷柱のように鋭い牙を剥き出しにして見せた。

二か月前、俺は自然保護官としてこの地に派遣された。
ジャングルでの生活はさすがに御免だとフローリンには何度も言ったのだが、
いつの間にやら承諾していた。
何かと彼には世話になった手前、そう強くも言えない。
ハビエルの頼みであれば迷うことなく二つ返事で「ノー」だっただろう。
ここは湿度八十パーセントの世界。
空中の液体が細胞と細胞の間までをも埋め尽くしてくるようなそんな感覚が、
昔の海洋生活を俺に想起させる。
肌で空気の行方を感じながら、セイルの顔向きを操作した日々。
マストに彫られた俺の名前は、今も変わらず残されているだろうか。

今日もまた、ベイジルとフランクが言い争っている。
綿素材のレイヤードシャツに半端丈のカーゴパンツを合わせたベイジルは、
現地の保護官チームの一員。
ブレイドテープで飾られたシャツと小洒落たカーディガンを着こなすフランクは、
政府がらみの協定によって成された自然保護組織の一員だ。
その白い肌が現地の人間ではないことを物語る。
両者の主張はいつまで経っても一方通行だ。
ナイロンのガウンジャケットを肩に引っ掛ける事務員のアーノルドが、場の空気を考えてか、
陽気なトーンで口笛を吹き始める。
俺は一応後者の組織に属するわけだが、指揮官のフランクだけはどうも信用ならない。
政府や企業の人間がやってきて何やら内密な会議をして帰ったかと思ったら、
フランクは唐突に森林伐採グループの連中を徴集したりする。
現地保護官に対する彼のつれない態度も、
現地民の生活習慣を野蛮だと言わんばかりで不愉快だ。

果たして森林保護は順調なのか。絶滅間近の動物たちは、その危機から守られようとしているのか。
あらゆる疑わしさが日増しに募るのを感じては、溜め息が出る。

二人の鬱陶しい舌戦に嫌気をさして外に出た俺は、二枚の写真を手渡された。
もちろん持ってきたのは自称ジャーナリストのライアン。
一枚は、一匹のゴリラが槍に突かれて横たわるのをハイエナが遠くで見ている写真。
もう一枚は、人間の上半身らしき固まりをくわえる雌豹の後ろ姿。
ペン差しの付いたいかにもなカメラマンシャツにサルエルパンツのライアンは、
いつも自分が撮った写真を強引に手渡しては、それと引き換えに食料を下さいとせがんでくる。
厚かましさを帳消しにするその屈託の無い笑顔が憎めず、
毎回こうやって取引が成立してしまうのだ。
俺はタイプライターベストのポケットから、カカオ味のクッキーを二枚差し出した。

遠くでまた、低くて長い銃声が森の中を反響しては消えていく。
それと同時に生命もまた、一つ二つと消えていく。

夕陽のフィルターが姿を消してから、ジャングル全体が闇色に覆われるまでのほんの少しのその間。
斑点模様の王様もチンパンジーもゴリラもキリンも、植物の根も葉も緑茎も、
ずっしり溜まった雨水も、全てが息づいて夜に浸る準備をする。魅惑的喧噪の時。

フローリン…やっぱりここは、俺には騒がしすぎるみたいだ。